穏やかに始まった大学院生活
工学部を卒業した私は同じ大学の大学院修士課程に進学しました。鬱病からの回復途上だったこともあり、大学院ではより穏やかな別の研究室に移ることにしました。優しい指導教官と居心地のよい研究室に出会えたのは本当に幸いでした。夜中まで実験を行いつつ、居室で先輩や同期とバカ話で盛り上がっていた日々が懐かしく思い出されます。
研究について
私の研究は地下水流動に関するもので、実験系を手作りして研究がスタートしました。実験では鉱物粒子を充填した充填層に流体を流し、その際に生じる化学反応と浸透率の変化を調べます。浸透率は充填層の入口出口間の圧力差と充填層内部の流速(ダルシー流速)から測定します。実験の方法としては、
(1)圧力差が一定となる条件で流速の変化を測る方法
(2)流速が一定となる条件で圧力差の変化を測る方法
の二つが考えられます。(1)の方法では、充填層の両端に一定圧力差の水圧をかけるために、充填層の入口と出口にそれぞれ異なる水頭の「オーバーフロー」という部分を設けます。このオーバーフローは水面高さを一定に保つために排水口から流体を溢れさせるのですが、そのため供給液の無駄が生じること、また流体が溢れる前後で水面高さが若干変動し圧力変動を生じること、オーバーフローを高所に置くので転倒の危険性があることから(2)の流速一定で圧力差を測定する方法で実験することになりました。
この(2)の方法では当初実験室にあったポンプで供給液を充填層に送り込み、充填層両端に圧力センサをつないで圧力差を測定したのですが、ポンプの脈動があまりにも大きく上手く圧力が測定できませんでした。そのため「無脈動ポンプ」という特殊なポンプを購入して実験を行い、ようやく浸透率が精度良く測定できる様になりました。
この開放型の実験系はその後流速計と攪拌タンクをつないで循環型の実験系に発展していくのですが、試行錯誤しながら実験系を作っていく作業はまさにものづくりであり、研究を通して様々な知識とノウハウを学べたことは大きな財産となりました。