「躁」と「鬱」と気力のありがたさ
工学部への編入学に際しては前の大学で取得した単位を編入先の大学で取得したものと読み替えて認定頂けたのですが、工学部の必須科目には理学部で取得した単位では読み替えようもないものもあり、授業では3年次分だけでなく1, 2年次の不足分も合わせて履修することになりました。朝から晩まで授業と実験の毎日でしたが工学部で学ぶ内容は刺激的で面白く、ロボコンサークルでの活動と共に充実した日々を送っていました。授業で顔を合わせる同級生とも徐々に仲良くなり、年度末には楽しい見学旅行が待っていたのですが・・・この見学旅行をきっかけに心身に変調を来してしまいました。
楽しいことが重なりすぎて「躁」に
見学旅行自体はとても楽しいものでした。4泊5日で関東近辺のいくつかの研究所と工場を見学して見聞を広め、夜は仲間達と宿舎で酒を飲み盛り上がりました。また見学旅行の後は大学が春休みとなり、前の大学や地元の友人と再会して遊んだりと楽しい日々が続きました。
面白いことと楽しいことが次々と重なり、私は毎日が楽しくて楽しくて仕方がない状態になりました。いわゆる「躁」という状態です。頭の回転はどんどん速くなり、怖いものは無くなり、人生がバラ色に思えてきました。どこに行っても誰が相手でも強気に大胆に振る舞えます。今から思えば不要なトラブルを招きかねない恐ろしい精神状態だったのですが、当時の私はただただ毎日がハッピーでした。
「躁」の反動で長い「鬱」が訪れる
そんな躁状態が春休み明けまで続いたのですが、ある失敗をして研究室の指導教官に怒られてから状態が変わります。落ち込んだ気分がずっと消えないのです。それまでは酷く気分が落ち込んでも2~3日で回復していたのですが、1週間経っても気分が回復しません。「さすがにこれはおかしい。」と思い大学の学生相談センターで相談したところ精神科の受診を勧められ、その後精神科にて「鬱病」と診断されました。
お医者さんの説明によると、人間の神経細胞は何かを考えたり感じたりする時にドーパミンなどの神経伝達物質を放出しており、「躁」とはこの神経伝達物質が過剰に放出される状態なのだそうです。私の場合は「躁」が続いて神経細胞が疲れてしまい、神経伝達物質を充分放出できない状態、すなわち「鬱」になったのだろうとのことでした。
「気力がある」というのは本当にありがたいこと
鬱になってからは「抗鬱薬」と「気分の波を押さえる薬(リーマス)」を服用していました。一度だけ抗鬱薬が効きすぎて再び躁になりそうになった時に「抗躁薬」を服用したのですが、これが嫌な薬で、飲んで寝た後、副作用で悪夢を見ました。そんな日々を何とか乗り越え大学卒業までは漕ぎ着けたのですが、元のレベルに気力が回復するまでに1年半、薬の服用を完全にやめるまでに3年ほどの年月がかかりました。
鬱病になると何をしていても楽しくありません。無気力になりアウトプットはおろかインプットすら難しくなります。未来への不安や自己管理など今も日々の悩みはつきませんが、鬱病の日々を思い出せば「気力がある」というだけで本当にありがたいことだと感じます。今後の人生でも色々なことが起きると思いますが、精神面の安定を保てる様、無理しすぎないこと、調子に乗りすぎないことを心がけようと思っています。